top of page

第17回 王子製紙会長 鈴木正一郎

130年以上の長い歴史を誇る王子製紙は、「日本国内No.1」であり世界第6位の製紙グループだ。その王子製紙が今手がけているのが、中国に製紙工場を建設する「南通プロジェクト」である。真の「世界企業」を目指し、他の分野や他の国に進出することでさらなる飛躍を目指す、王子製紙の試みを鈴木会長に聞いた。



「南通プロジェクト」で現地に工場を


――生産工場、駐在員事務所など中国に18の拠点あるそうですが、今大きなプロジェクトとして南通プロジェクトがあるとうかがっています。

そうですね。弊社グループが従来中国国内で手がけてきた事業に比べ断然大きいです。工場を建てるまでの投資額で申し上げると、約20億ドルです。


工事は段階的に行う予定にしており、今は最初の紙生産設備を設置する工事をしています。工事は今のところ順調であり、来年の末までには、最初の高級紙生産設備が稼動すると思います。年間、紙の生産で40万トンです。


その後、パルプ設備をつける予定です。木材からパルプを作り、パルプから紙を作るというのが製紙産業ですから、紙生産設備の次には、パルプを作る施設をつくることとなります。そして、高級紙を生産する設備をもう1台設置し、紙の生産量は80万tとなります。日本国内で言うとは年間800万トン生産していますから、その1割程度ですね。とはいえ、一つの工場としては世界的に見ても大きなものであると言えます。



――南通を選んだ理由は?


基本的に言って日本の紙の消費量は増えません。1人当たりのGDP(国内総生産)が大きくなっていくと、1人当たりの紙の消費量も増えていきます。それがある段階まで行くと、1人当たりGDPが増えても紙の消費量が増えなくなります。日本はすでにその段階です。いくら裕福になっても新聞をたくさん買うようになるわけではありませんし、ティッシュペーパーを多く使うようになるわけではありません。日本では1990年代終わりごろ、すでにピークが来ています。


日本国内の需要に頼っているだけでは会社の発展はありません。一方中国は、1人当たりのGDPも紙の消費量もすごい勢いで増えているのです。ですから、成長の余地は大いにあります。ピークになると、1人当たり1年間で200キログラム紙を使うようになります。中国はまだ、50キログラム程度だと聞いております。これから中国が、文化的・社会的に、また様々な面で成長していくためには紙が要るのです。新聞ももっと作らなければならないし、雑誌ももっと発行しなければならない。そういうことで、紙の使用量は増えていくはずです。我々には、木を植えてパルプを作り、紙にしてマーケットに出すという力があるので、中国に進出したほうがよいということなのです。


それでどの場所がいいか調べると、江蘇省南通市がよいということになりました。その理由は、製紙業にとって重要な水が豊富にあることのほか、上海という消費地に近く、北京を中心とした中国北部の市場や広東省を中心とした中国南部の市場の中間に位置することから、輸送費の面でメリットが期待できることがあります。また、原料となる木は主に輸入することになりますが、工場を建設する用地は長江に面しており自社の港もつくることができため、直接木材原料等を工場に持って来ることができこと等があげられます。



――中国での売り上げはどのくらいで、全体の何パーセント程度でしょうか?


南通の工場がまだ稼動していませんので中国での売り上げはまだまだ小さいですが将来は中国を中心に、海外売上高比率を現在の2倍の20%以上にすることを目標にしています。



インターネットが製紙業に与える影響


――インターネットの時代が来ています。紙の消費には影響がありますか?



あります。アメリカのほとんどの新聞社は経済危機が起こる前から広告収入が減っているのです。広告がインターネット広告に移っているということでしょう。新聞社にとって広告は重要な収入源ですから、新聞事業に大きな影響を与えています。今回の経済危機で新聞広告はさらに減りました。かなりの新聞社が赤字ですし、大きなところは事業を売却したり、廃業したりしています。これはヨーロッパでも起こっています。そういう意味では、インターネットや電子メディアが紙の消費に及ぼす影響と言うのは無視できないでしょう。


日本では需要にピークが来て人口が減り、電子メディアが発達することで消費も減少する可能性があります。日本の工場は縮小していかなければなりません。アメリカとカナダが今ものすごい勢いで工場を閉鎖しているのです。ヨーロッパもそうです。日本はそこまでいっていませんが今後十分考えられます。では、世界的な紙の消費はどうかというと、増える国があり、減る国もある。トータルすると紙の消費はまだ増えるのです。ですから、製紙産業というのは紙の消費が減る国にじっとしているとつぶれてしまいます。伸びる国にどんどん出て行かなくてはいけない。


我々が今、注目し進出しているのは中国・タイ・ブラジルなどの新興国が中心です。10年、20年後には、日本に王子製紙がなくなって、中国やベトナム・インドに王子製紙という会社が存在するということが起こってもおかしくはないのです。


――新聞の発行は減っています。ですがその一方で紙を使う分野は増えています。紙で作る服なども発売していますね。


そうですね。減る部分がある一方で、増える部分も作っていかなければなりません。今、そういう意味で、弊社も服を作るような糸を紙で作るという技術があるのです。面白い技術だと思います。そういうものを作って売っています。またデジタルカメラで撮ったものを今はすぐ印刷できます。これはインクジェット方式であったり、昇華熱転写※の紙であったりします。必ずしも紙と言わなくとも石油を原料とした合成紙などもあります。また、レントゲンやCTスキャンで撮影した映像をその場ですぐプリンター印刷できる医療診断用の感熱フィルムもあります。これらは付加価値が高く、需要も増えてきています。



世界的植林事業


――植林にも力を入れていますね。


原料を確保することはどの産業にとっても重要ですが、製紙業では木を育てるということはとても大事なことです。地球温暖化が進んでいますが、その原因の20%は木森林が減っていることにあると言われています。世界中の森林が減少すると炭酸ガスを吸収してくれるものがなくなり、炭酸ガス濃度が増えます。製紙業は世界の消費量の増加に対応するために植林と古紙の回収を進めていますが、製紙により森林が減少しないように、木をどうやって安く世界に増やすかは、これから非常に重要になります。


京都議定書でも森林というのはこういう価値があると認めていますが、こうしたことに対して、今後もっと積極的になるでしょう。増やさなくても、木を切らずに留めておくだけで価値があるということが議論の的になっています。減らさないためには、木を安く早く作る技術がなくてはいけません。


我々はパルプを作り、紙を作っていますが、先ほどブラジルと申し上げたように、ブラジルは土地が広大で、気候的にも木を育てるのに好都合です。そこで土地を買い、木を植えています。今、私どもの関係会社がブラジルに25万ヘクタールほど土地をもって、そこに木を植えて、木が伸びてきたのを切ってそれをパルプにして、切ったあとにまた植えて、次の年はまた隣りを切ってパルプにしています。年間約120万トンのパルプを作っていますが、そのほとんどを自分の山に植えた木だけを原料にパルプが作れるのです。木を作る技術というのは今注目されています。


――植林をする中で、何か問題はありますか?


中国も含めて世界で植林をしています。そこで次第に問題になってきているのは、(とうもろこしなど)食糧との土地の取り合いになることです。世界の人口が60億人でありこれから90億人ということになれば、食糧が必要になります。食糧を作るのであれば、よっぽど条件がいいところでなければいけませんよね。酸性土壌であるとか、雨の降らないところであるとか、そういう場所は農業には適しません。


植林をしていると、農地とバッティングしてきます。そうすると地価が高くなり、付加価値が低いものを安く作ることができなくなってきます。1年間に500ミリしか雨が降らない、食糧が作れないような土地であっても、育つような木を作ろうということです。食糧を作るところでは食糧を作り、木を植えるところでは木を植える。これは理想的です。


どのようにして木からパルプを作るのか。非常に単純化して申し上げると木にはセルロースという繊維があり、それをリグニンという物質が接着剤の働きをしてあの堅い木ができているのです。パルプを作る時はセルロースを使うのでリグニンは取り除きますが、これを捨ててしまうと公害になります。そこでリグニンを含んだ廃液を蒸気で濃縮し、特別なボイラーで燃やしエネルギーにして、同時にパルプを作るときに使った薬品も回収して再利用するのです。こうして製紙業は成り立っています。そういう意味でパルプを作るというのはエネルギーも同時に作ることなのです。これはアメリカでも大変な議論になっています。再生エネルギーとして補助金を出すのか出さないのかの論争です。


もう一つ、できた繊維は紙になりますが、これをさらに分解すると糖になり、アルコールになるのです。バイオフューエルと称して、コーンからエタノールを抽出する。シュガーからエタノールをつくるということが試験で行なわれています。こういうことはまた、食糧や石油代替燃料とバッティングするのです。アメリカの農家がコーンをすごくたくさん作るようになった。これはバイオフューエルの原料にするからなのです。しかし、コーンがすべて燃料になってはコーンを食べているメキシコの人などは困ります。また、それをエサにして豚や牛を飼う人も困ります。我々にセルロースを分解してエタノールを作る技術があれば、このような問題の解決の糸口になるかもしれません。我々はいまセルロース・エタノールの研究を一生懸命しているのです。




インタビュアー:『月刊中国NEWS』 編集長 張一帆


『月刊中国NEWS』 09年7月号掲載


bottom of page