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第04回 ジャーナリスト 田原総一郎



中国から戻った田原氏にインタビュー

昨年11月と今年3月に、東京と北京で開かれた「日中ジャーナリスト交流会議」で座長を務めた田原総一朗氏。日中のジャーナリストが本音で激論を戦わせた非公開のこの会議では、日中間の火花散る問題が話し合われ、大きな成果があったという。また、上映中止をめぐって、大きな問題となった映画『靖国YASUKUNI』をめぐって、田原氏自身の靖国観をお話いただいた。

日中ジャーナリストの討論

――これまで2回開かれた日中ジャーナリスト交流会議で、座長を務められましたが、討論はどのようなものでしたか?

半年前に、東京で最初の日中ジャーナリスト交流会議を開いた時は、日中メンバーの間で、日本と中国の体制が違うとか、文化が違うとか、または同じ言葉であっても意味が違ったりする部分があって、なかなか話がかみ合いませんでした。それに比べて、2回目の北京では、最初から話がかみ合って、いきなり問題の核心に入れました。

――どういった言葉にかみ合わない違いを感じましたか?


例えば、「報道」とは何かという問題で、最初の会議の時は、日本側の言う「報道」の意味と、中国側の言う「報道」の意味は、違うんだなと思いつつはっきりしなかったのですが、2回目には、はっきりしました。中国の人たちの言う「報道」は、その究極の目的は国益を高めるためにある。

日本人が言う「報道」というのは、事実を追求して、その事実を新聞で言えば読者、テレビで言えば視聴者に提供することにある。その事実がたとえ国益を損ねようとも報道する。そこが基本的に違うと思いました。

それがはっきりしたので、中国側にこういう話をしました。「我々は満州事変・日中戦争・太平洋戦争を経験しています。日中戦争は、私が3歳のときに始まっていますが、今から考えても全く馬鹿げた戦争だった。日本がやってはいけない戦争をやったと思う。日中戦争をやったから太平洋戦争をやらざるをえなくなって、こんなものは負けるに決まってる戦争なんです。そういう、昭和の戦争について日本国政府は、国益のための戦争だと言いました。国益ではあったかもしれませんが、『国民益』を著しく損ねた。国民たちを全く不幸にさせて、日本に限らず周りの国にも迷惑をかけたわけですから。

だから、その戦争を体験した私のような人間からすれば、国益なんて信用しない、特に権力をもつ政府の言ってる国益など信用しない、もっと言えば政府も信用しない部分がある。だから『報道』は、国益などとは関係がない」と言いました。中国は、中国が独立してから、中国政府が国民に甚大な被害を出すことをやってないのだと思います。だから、中国のジャーナリストは、国益イコール「国民益」だという考えが強いのだと思う。そこに違いがあるんだと思います。

腹を割った交流会議

――言葉一つにも、国の文化、歴史が絡んでくる。ジャーナリストといえども交流は難しかったのでは?

この会議は、とことん本音を話し合う、けんかになっても本音を語るというのが主旨です。だから、この話についても日本側からこう質問しました。「中国の国民が政府のために、大迷惑を被ったことが実はあるのではないか。それは、10年間の文化大革命です。たぶん毛沢東にとっては国益だと思ったに違いないが、国民にとっては大被害であったと。この文化大革命をどう捕らえますか」と。

そうしたら中国側は、「文化大革命は全くの失敗であった。失敗した一番の張本人は毛沢東だ」と言いました。だから、「毛沢東の責任をどう考えるのか」と日本側は聞きました。そうしたら「実は、鄧小平が毛沢東全体を10とすると、3はバツだったと批判した。しかし、中国共産党をつくり、中国を独立させた。それは7のプラスだ。だから我々も毛沢東を全否定はしない」と言っていました。

私は、実は鄧氏があの時点で毛氏を全否定しなかったのは、鄧氏の極めてしたたかな智恵だったと思う。鄧氏が、自分は中国の顔にならないと考えたのか、毛氏を顔にしておくことで、ずっとやってきた。これが鄧氏の智恵であり、中国の知恵だと思う。ただし、これをいつまでも続けていると、体制がなかなか改革開放できないんじゃないかとも思う。そういう討論をしました。

日中ジャーナリストが政府を動かした?

――最近のチベット問題については?

中国側は、チベットで中国の武装警察隊が市民たちを強引に押さえつけている現場の写真だというものを出して見せてくれました。アメリカで、掲載された写真だけれども、実はこれは事実ではないという話でした。チベット以外のところで撮った写真であると。しかも、その写真はいかにも警察隊が市民たちを圧迫しているように見えるけど、それは大きな写真をトリミングしたのであって、トリミングした外の部分には、市民がワァッといっぱいる。そういう一種の偽装が行なわれている報道について、解説してくれました。

日本でもベトナム戦争の時に、アメリカがベトナム人に対して、ひどいことをしているという写真や映像は、日本のテレビ局でも放送してました。しかし、それは日本人が撮ったものではなく、当時のベトナムのブローカーから買ったものなんです。たぶん、そういうことがあるのだろうと思います。それは問題です。

だけどそれをさせないためには、チベットで外国のメディアに取材させるべきだと話しました。中国の方からは、そんなことしたら、もっとひどい映像が出るという意見も出ましたが、そんなことはない。外国のメディアに報道させれば、多くは事実を報道すると思います。中にインチキを報道するところがあっても、それはとてもみっともないことになる。チベットを開いて、外国メディアに報道させるべきだと。そうしたら、そのせいでとは言わないけれども、翌日の朝、外国メディアにチベットを取材させると中国政府が発表したのです。もしかして、ジャーナリスト交流会議が中国政府に影響を与えたとすればこれはとても有意義だったと思います。

――中国側のジャーナリストについてどのような印象を持たれましたか?



ギリシャでの聖火の採火式に、北京オリンピックに反対する数人の男が乱入したという事件がありました。中国のテレビは、乱入のシーンを撮らないで他のところを撮ることで、乱入を中国の国民に知らせないようにした。しかも、CNNは中国でも見られるのですが、CNNが乱入シーンを放送しようとすると真っ暗になるということが2度3度あった。

それを体験した日本人がこれはおかしいじゃないかと言ったら、中国の極めて優秀なジャーナリストが、「もしそんなことを中国がやったとすれば、愚劣極まりない。全く馬鹿げている。仮に中国にとって芳しくない情報だとしても、それを流すことより、流さないことの方がデメリットが遥かに大きいんだ」と、堂々と言ったんです。私は拍手しましたよ。一つには、こんなに度胸のある、勇気のあるジャーナリストが中国にいたんだということに驚きました。それと同時に、もう一方では、中国はここまで改革開放された、ここまで自由にものを言えるようになったんだなということを認識しました。

数年前までは、中国には言論の自由が全くないと思われていた。多くの日本人は、今でもそういう気持ちをもっています。でも実際はそこまで言えるようになったんだということをその場で実感しました。この点でも有意義な会議だったと思っています。

餃子問題、映画『靖国YASUKUNI』を語る

田原総一朗氏は、この他にも、中国政府要人と会見した印象、餃子問題、上映中止等で話題にあんった映画『靖国YASUKUNI』について、熱く語ってくださいました。 「靖国を、隠し撮りではなく全部正面からカメラ据えて撮っているところに感心した」と、単刀直入な田原氏らしいコメントも。

インタビュアー :『月刊中国NEWS』 編集長 張一帆

『月刊中国NEWS』 08年6月号掲載

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