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第15回 コマツ会長 坂根正弘


中国において、建設機械で外国メーカー・トップクラスのシェアをもつコマツ。世界中に金融危機の嵐が吹き荒れる中、コマツの中国での販売は、すでに回復の兆しを見せ始めている。長年中国とのビジネスに携わり、発展の経過を見てきた坂根会長に、中国経済及び中国の建設機械事業の現状と展望を聞いた。


欧米よりも大きい中国の建機需要


――世界的な不況が中国にも影響を与えていますが、中国はコマツとってどのような比重を占めていますか?


今世界中が悪い中で、中国における建機需要は戻り始めており、日本やアメリカに比べ中国のウエイトが相対的に大きくなっていきています。コマツの2008年度の販売台数の構成比で見ると、日本が16%で、ヨーロッパが11%、北米が12%ぐらい。日米欧の合計で約40%です。去年9月のリーマン・ショック以降、世界的に需要が減少し、中国も落ちましたが、この2月には戻ってきました。ですから2月単月で見ると、販売台数は、日本・北米・ヨーロッパを足したよりも、中国の方が大きい結果が出ています。4月から新しい会計年度が始まりますが、中国における建機需要は、北米や欧州を追い越すのではないかと見ています。


――この中国の状況はどれぐらい続くと思いますか?


中国における油圧ショベルの需要推移を見ると、中国は2003年がバブルだったのですが、2004年4月に中国政府による金融引き締め策が行われ、建設機械需要は一気に落ち込みました。そこからまたリバウンドし、2007年まで拡大を続け、2003年レベル以上に戻りましたが、世界的な景気後退により、2008年は2007年より少なくなります。2003年当時は確かにバブルでしたが、建設機械の場合は一度大きな調整が入っているので、私は中国に今バブルが起こっているとは思いません。 中国が2004年4月になぜマクロコントロールをしたかというと、中国がバブルになっ


ているとき、アメリカの景気がよかったからなのです。だから、ここで中国国内を引き締めしても、輸出があるから大丈夫だということでやったはずです。今は、逆に外が悪いから、この時期に中国政府が国内で引き締めをするということはあり得ないでしょう。だから、私は中国における建設機械の勢いはしばらく続くと思っています。


――全人代でGDPの成長目標が8%と発表されましたが、どう見ていますか?



今までが11%、高いときには12%という成長率だったわけですから、8%の成長目標は中国にとっては低い数字だと思います。輸出産業が相当ダメージを受けていますが、この輸出産業には2種類あって、ひとつは純粋な中国企業であり、もうひとつは日本やアメリカなどの海外の企業が中国で生産し輸出を行っているものです。後者は、中国内で部品から全部作っているわけではなく、部品を輸入し、組立てしているところが多いので、中国内の付加価値はそれほど高くありません。つまり、一般に言われるほど輸出で国が支えられていたわけではないのです。今中国内では、電化製品の購入に対してインセンティブを付けたりして、内需拡大を図っていますので、輸出産業が少々ダメージを受けても8%の成長は維持していけると思います。 一方、南米やアフリカなどの資源国は、中国の資源・エネルギー需要に支えられてきた面があり、中国経済がおかしくなると、ダメージを受けます。世界中の多くの国に影響を与えるという意味では、アメリカよりも中国経済の方が大きいですね。 8%の成長はなんとか維持できるでしょう。そうすれば世界経済が同時に崩壊する状態にはならないと思います。日本、欧米における建設機械需要はまだ下落が続いています。一方、中国では去年の11月、12月が一番ひどい状況でした。2月の旧正月明けから需要が戻っており3月もまだ1週間ですが(3月10日取材)、コマツの販売状況は史上最高の販売台数を達成した昨年3月と同じペースになっています。建設機械需要はまずまず戻ってきています。


余ったお金は中国へ回る


――昨年11月に清華大学で講演された際に、金融危機ではアメリカよりもむしろ中国がどうなるかが重要だと話していらっしゃいます。それはなぜですか?


20世紀の後半、1990年頃に日本でバブル経済が起こり、2000年にはアメリカがITバブルを起こしました。多くのお金が余り、経済を成長させるために、投資するオポチュニティー(機会)がすごく少なくなってきたからです。 西欧の企業は旧東欧に市場を拡大し、アメリカはNAFTA(北米自由貿易協定)を作ってメキシコなどを入れて、そして日本もアジアに市場を拡大しました。ですが、例えば日本で建設機械の工場を作るのに、土地代や建設費が高くて200億円かかるとすれば、中国で作ると、その十分の一、約20億円で工場が建設できる。すごくお金に値打ちがあるのです。だから結局、日本やアメリカやヨーロッパで余ったお金というのは、使いきれずに余り、その上新興国に貯まったお金もアメリカに還流し、住宅バブルを引き起こしました。ですから、余ったお金を投資する機会がなくなってきたことが世界の一番の基本問題なのです。 これまで中国・インドなどの新興国にお金が回っていったわけですが、そこでお金を投資する部分が創出されてこないとまたお金が余るのです。


今、世界の各国が金融緩和でどんどんお金を出しています。そのお金は、今は将来を心配して使う方に回っていませんが、お金をまたどこかへ回す必要があるわけで、実際に工場を作ったり、道路を作ったりに回そうとなると、これからまた中国など新興国にお金が集まってくると思います。中国がうまくバブルを起こさないようにしなくてはなりませんが、中国の今の政治体制のあり方というのは、そういう部分のコントロールはきちんと行われると思います。今のような状況であれば、中国の手の打ち方はやはり早いといえます。 。


最初に復活するのは建設機械


――中国は4兆元(約55兆円)の景気刺激策を打ち出しましたが、コマツにはプラスに働きますか?


それは非常に大きいです。日本や欧米のように既にインフラが出来上がっている国々では、建設機械は基本的に新規の需要がなく更新需要が中心です。ですから、80年代・90年代の日米欧市場が中心だったときは、建設機械業界はオールドエコノミーといわれる成長しない産業だったのです。ですが今の中国やインドのように、新たに道路を造ったり鉄道を造ったりということになると、自動車より建設機械の成長が高くなります。実際にここ数年コマツは中国において毎年40%くらい売上を伸ばしてきました。現在、世界的に経済が悪くなっており、中国やアメリカ、その他さまざまな国々で公共投資にお金を出そうとしています。そうするとこのメリットを最初に享受できるのは建設機械になります。


――現在は円高が続いていますが、グローバル企業として影響はありますか?


ええ、確かに影響を受けますね。ドルに対して年平均で1円円高になると、コマツの営業利益は35億円ほど減少します。年間で10円円高になると350億円の減益です。しかし、ドルだけで計算してもだめで、今コマツが苦しんでいるのは、資源国であるオーストラリア(豪ドル)や南アフリカ(ランド)などの通貨が円に対して大幅に弱くなっていることです。実際にはこちらのダメージの方も大きいですね。あらゆる通貨を入れると1円の円高で50億円くらい利益が飛ぶかもしれません。ただ、過去に何度か年間平均で15~20円、円高になった時がありますが、いずれも世界経済が上向いているときに円高になっていましたので、現地での販売価格を上げることもできて、円高を吸収する手立てがありました。ですが今回は、マーケットが縮小する中での円高であり、初めてのことです。円高は計算すると非常に大きなダメージがあるのですが、むしろ経済がシュリンクしている中で起こったということのインパクトが大きいと思います。



インタビュアー:『月刊中国NEWS』 編集長 張一帆

『月刊中国NEWS』 09年5月号掲載

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