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第34回 東京海上日動火災保険株式会社 取締役会長 石原邦夫



2010年に中国進出30周年を迎えた東京海上日動火災保険株式会社は、1980年に中国国外の保険会社として初めて北京に事務所を開設、1994年には外資保険会社として2番目に早く上海に営業拠点を設置した中国での経験も一番豊富な保険会社だ。そして、石原邦夫会長はことあるごとに中国へと足を運び、北京オリンピックや上海万博の際にもそれぞれの会場を訪れている。「速い変革スピード」を誇る中国に、石原会長は「調和のとれた成長」を望む。石原会長は中国の保険市場のみならず、中国の将来についても語る。


中国の「速い変革スピード」と「調和のとれた成長」

――中国には行ったことがありますか?行った際には何か啓発されるものはありましたか?



私の生まれた故郷は現在の吉林省長春市(旧満州 新京市)ですが、2歳の時に日本へ帰国しましたので当時の記憶は残っていません。とはいえ、両親からよく当時の話を聞かされましたし、母は私によく餃子を作ってくれました。 東京海上に入社後も、1993年に上海、北京に出張し、また、2001年の社長就任以降は、当社の「旧上海支店10周年記念式典」への参加や、当社が保険監督機構と共同で取り組んでいるさまざまな行事に参加するために、数多く中国に出張しています。海外出張では中国が一番多いです。 中国には東京海上日動(中国)という現地法人があり、また中国の生命保険会社や保険ブローカーにも出資しています。 中国を訪問した際に啓発されることは「変革スピードの速さ」です。訪れるたびに街の様相が変化する「ビル建設の速さ」、法律の制定を含めた「政府の戦略推進の速さ」「企業の意思決定の速さ」「政府や企業のトップが発信する方針の浸透の速さ」などです。重要な案件とそれ以外のものを見極め、重要なものから迅速に進めていくやり方には、日本も学ぶべき点があるでしょう。


「和諧社会」から「包容性ある発展」へ

――経済活動以外に中国ではどのような活動を行なっていますか?


CSR活動として、中国共青団(共産主義青年団)を核とする全青聯(中華全国青年聯合会)をパートナーとして、農民工の子弟学校へ学校用品の寄贈等を行っています。昨年北京で農民工子弟学校を訪問した際には、子供たちが目を輝かせて喜び、私に千羽鶴を折ってプレゼントしてくれました。今年度は河南省と貴州省の学校へ寄贈などを行なっていくこととしています。 また、毎年3月に開かれる中国発展研究センター主催の「ハイレベルフォーラム」にも参加しています。2008年、金融危機が世界を襲う中、中国は4兆元の経済対策を打ち出し、比較的早く危機を脱しました。その過程で温家宝首相は、「有信心」とおっしゃられました。これはつまり「自信を持て」ということです。フォーラムに出席したあと当社の支店長会議で私がこの言葉を伝えたところ、社内での流行語になりました(笑)。


 

中国のインフラ・格差・環境

――中国に関して最も興味があることは何ですか?



現在興味があることを挙げるとすれば、次の三つでしょうか。 一つ目は「広い中国国土におけるインフラ等の社会基盤整備について」です。 私は中国を訪問する度に鉄道・高速道路・港・空港・ビル建設等インフラ整備の急速な発展を感じます。 中国政府による4兆元(約49兆円)の経済対策の効果もあったと思いますが、今後益々物流網の整備が進んでいくことで都市間の距離が縮まり、魅力ある街作りや、持続的経済発展に繋がっていくことを楽しみにしています。 二つ目は「格差問題の改善と社会の安定」についてです。 胡錦涛政権が、2006年の第16期中央委員会第6回会議で「和諧(調和)社会の実現」を採決してからすでに4年が経過していますが、都市別可処分所得の差は拡大しつつあり、2009年度統計によれば、都市部平均可処分所得1万7000元(約20万6000円)に対し農村部はわずか約5000元(約6万6000円)にとどまり、1人当たりGDPが最も高い上海市と最も低い貴州省では約8~9倍の開きがあると聞いています。 中国政府が掲げる「和諧社会の実現」のために、経済発展と歩調の合った住民所得の増加、並びに年金・教育・医療制度等の社会保障の充実が必要なのではないかと考えています。 現に2010年9月に中国のある省の副省長と会食をした際も、「医療保険や養老保険を含む年金制度の整備に取り組んでいるが、様々な問題や矛盾点が浮かび上がっている」とのことで、今後の対策について頭を悩まされていました。 当社は、養老保険・医療保険制度構築面や、商品開発及び運営面において、ノウハウや経験もあり、中国での保険事業活動を通じてこのような社会保険制度整備にも貢献していきたいと考えています。 三つ目は、中国政府の掲げる「資源節約型・環境にやさしい社会の建設」方針によって、中国と日本、または中国企業と日本企業がどのようにウィン・ウィンの関係を構築していくかという点についてです。



何でも話し合える「老朋友(ラオポンヨウ)」が必要

――日中両国で、今後どのような人材が必要になっていくと考えますか?



今後も日中間でいろいろな問題が発生することが考えられる中、そういった緊急の場合に率直に話し合えるような人材を両国の各層で育てていくべきだと思います。国のリーダーから民間に至るまでそういった人材が必要になってくるでしょう。先日、上海に行った際、ある方が私に対して「あなたは私の老朋友だから」とおっしゃられました。こういった「老朋友」を増やしていくべきだと思います。中国語の「老」には「お年寄り」という意味もありますが、「古くから」という意味もあります。意見がぶつかることもあるかもしれませんが、どんなことでも話し合う姿勢が大事だと思います。先日、国会議員の江田五月氏が808人の人を連れて中国に行かれて交流していますが、観光地をはじめとして日本の各地にも多くの中国の方々がいらっしゃいます。実際に現地に行って、その目で見て交流することが何よりも大切だと思います。


――中国で展開している会社では、管理職はほとんど日本人ですか?


 そうでもありません。現在の管理職は中国人・日本人が半分半分くらいでしょうか。日本から中国へ進出する企業はどちらかというと、日本人がトップに立って組織していくケースが多いですが、その点は現地化を進めていくべきだと思います。東京海上日動の場合も、中国で働く人が日本へ何度も足を運び見聞を深めるであるとか、日中の社員でお互いに意見交流し、日本の東京海上グループの考え方を学ぶ等の必要があるでしょう。


 


インタビュアー:『月刊中国NEWS』 編集長 張一帆


『月刊中国NEWS』 11年02月号掲載

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