特別インタビュー: 内閣総理大臣 鳩山由紀夫

2009年9月、鳩山由紀夫首相が誕生した。中国とゆかりがある鳩山首相は、その人柄から見ても、中国人にとって親しみやすい存在だ。鳩山首相が日中の距離感を縮めてくれることは間違いないだろう。そこで、鳩山首相に関する中国での気になる噂から、中国の軍事費について、訪中のタイミング、今年横浜で開か



れるAPECへの意気込みなど、日中関係として押さえるべき事柄をすべて網羅する形でインタビューを行なった。これで、日米同盟の深化を進めながら日中関係も重視していく、鳩山政権の外交姿勢がよくわかるはずだ。



日米同盟を深化させ、日中の距離感も縮める

――曽祖父の時代から中国とは関係が深いそうですが、そういった中国に関する話をうかがったことはありますか?


鳩山家は代々日中の友好に努めてきました。曾祖父の和夫は、早稲田大学学長として、当時の清からの留学生を初めて受け入れました。祖父の一郎は、1955年に日ソ国交正常化を達成した総理として有名ですが、実はその頃から、中国とも国交正常化を図りたいという思いを抱いていました。父の威一郎も、外務大臣として日中平和友好条約の交渉に携わった他、1982年には、中国側のお招きにより、日中国交正常化10周年祝賀行事出席のために訪中しております。妻も上海で生まれています。

 


――中国の現代京劇『紅灯記』の悪役で鳩山なる人物がいることについて周恩来氏に、「鳩山姓の人間で、中国で悪事を働いた人間はいない」とおっしゃられたという話が中国では有名になっていますが本当ですか?


現代京劇「紅灯記」の存在や、そこに「鳩山」という名の悪役が登場することについては、聞いたことがあります。この作品は、1960年代に創作されたそうですが、祖父が日本の総理大臣を務めていたのが1950年代半ばですので、もしかしたら、当時の中国で祖父の名前が有名であったために、「日本人といえば鳩山」であった証拠ではないかと肯定的に受け止めておきたいと思います。 父が、御質問のようなことを周恩来総理に申し上げたかどうか、直接は存じていませんが、少なくとも、父も私も、中国の歴史や文化に大変親しみを感じており、両国国民間の友好を願ってやまないことは間違いありません。



日中関係は良いスタートを切れた

 ――民主党は2009年の9月に政権交代を果たしました。民主党の対中政策は自民党の対中政策とどう違いますか?また、民主の具体的な対中政策をお教えください。また、現状に点数をつけるとすれば100点満点中何点ですか?




鳩山政権は、中国をはじめとするアジアとの関係を重視しており、多様な価値観を相互に尊重しつつ、共通する点や協力できる点を積極的に見いだしていくことで、真の信頼関係を築き、協力を進めて行く考えです。 中国との間では、昨年9月に新政権が成立して以来、首脳、外相といったハイレベルによる交流が頻繁に行われており、私も胡主席、温総理との間で「戦略的互恵関係」の内容を充実させていくことで一致しました。現在の日中関係に点数をつけるのは難しいですが、日中関係は新政権の下で良いスタートを切ることができたと考えています



――今年中に訪中する予定はありますか?また、もし日中関係にまだ問題があるとすればどのような問題ですか?


今年も、日中間のハイレベル交流は引き続き活発さを維持して行われていくことが期待されています。本年は、温総理を日本にお迎えする番ですが、可能であれば、私も上海万博の開催期間中に訪中したいとの思いはあります。ハイレベルでの緊密な意思疎通を通じて日中関係を更なる高みに導きたいと思います。 他方、日中間には、東シナ海資源開発や「食の安全」といった懸案が存在していることも事実です。こうした問題に背を向けることなく、正面から冷静に取り組んでいくことが重要だと考えます。相違を認めつつ、相手を尊重するという「友愛」の精神に基づき、具体的かつ建設的な協力を進めて行くことで、懸案の適切な解決を模索していきたいと思います。

 


中国の発展は脅威ではなくチャンス


――日本国内には中国の台頭を懸念する声もありますが、鳩山首相にはその危機感がありますか?中国は実際の大国となってきています。環境保護などの世界的な問題、イラン核問題などのアジアの問題、また東アジア特有の問題、それぞれについて大国として、責任ある中国に期待するのはどういったことですか?


中国が国際社会と協調しつつ安定的に発展することは我が国にとって脅威ではなく、むしろチャンスと考えます。中国の改革開放以来の発展が我が国を含む国際社会に大きな好機をもたらしていることを積極的に評価しています。 一方、中国が不透明な形で軍事力を増強させていることは指摘せざるを得ません。中国が軍事政策面を含め透明性のある行動をとることは重要であり、我が国としても、安全保障分野における対話や交流を通じ、国防政策の透明性向上を働きかけていきたいと思います。 2008年5月に発表した「日中共同声明」において謳われているとおり、日中両国は、アジア太平洋地域及び世界の平和・安定・発展に対し大きな影響力を有し、厳粛な責任を負っています。我が国として、中国が、北朝鮮問題や東アジア共同体構想といった地域の課題や、国際経済や国際環境問題等の世界的な課題について積極的に取り組み、地域と国際社会においてより建設的な役割を果たすことを期待しています。


 

――中国経済が拡大する現在、具体的に日中経済はどのように交流するべきだと思われますか?また、中国とFTA協定を結ぶなどの考えはありますか?


日中両国は、近年、経済面での相互依存関係を深めており、現在までに約2万3000社の日系企業が中国で活動中です。また、中国は2007年以来、我が国にとって最大の貿易相手国となっており、こうした傾向は今後も継続する見込みです。 こうしたことから、中国経済の発展は我が国にとって「チャンス」であると認識しております。今後、日中両国が経済関係を強化し、同時に、食の安全や知的財産権の問題などの諸課題にも正面から取り組んでいくことは、両国の利益のみならず、世界経済の持続的発展にも貢献するものと考えます。 FTAについては、日中韓三カ国の枠組みでFTA締結に関する産官学共同研究を立ち上げる予定であり、企業の投資活動を保護し、促進するための日中韓投資協定についても現在交渉中です。こうした取組も通じ、中国との経済関係を一層強化していく考えです。

 


上海万博の開催は東アジアの活力の象徴

――上海万博はアジアの万博として世界的にどのように評価されると思いますか?


上海において国際博覧会が開催されることは、世界の成長センターである東アジアの活力を象徴しています。上海万博に、中国国内はもとより、日本やアジア、さらには世界中から多くの人々が訪れ、幅広い交流が行われるとともに、万博の成功が、中国のみならず、アジアや世界の経済にも良い影響を与えることを期待します。 上海万博は「より良い都市、より良い生活(Better City, Better Life)」をテーマに、地球環境と経済発展のバランスがとれた持続可能な発展をどう実現するかに焦点を当てています。これは、2005年に我が国で開催された「自然の叡智」をテーマとする愛・地球博の精神を継承するものと承知しています。上海万博の開催が、21世紀の人類が直面する課題に対してグローバルな協力を一層強化する契機になることを期待します。



――前原大臣は鳩山首相のことを劉邦のような人であると言っていましたが、ご自身はどう思いますか?また、ご自身を中国の歴史上の人物にたとえた場合、誰が一番近いと思いますか?


前原大臣は、私(首相)は、自ら先頭を突っ走るよりも、いろんな方々の意見を聞いてまとめていくタイプであるという意味で、項羽よりも劉邦タイプだとの感想を述べたと聞いています。私は、コンダクター・タイプだと思っています。あえてどちらのタイプかと言われれば、「調整型」かもしれません。 中国の歴史には、多くの大変尊敬すべき人物がいると思いますが、公平を期すために、特定の方を取り上げて「自分は誰々タイプ」と申し上げるのは控えたいと思います。 数百年にわたる漢帝国の礎を築いた劉邦と比べるのも失礼な話かもしれませんが、私としても、半世紀にわたる自民党体制を終わらせて政権交代を成し遂げた一国の指導者として、今後長きにわたる日本の安定の基盤を構築できるような仕事をしたいと強く願う次第です。


鳩山由紀夫 はとやま・ゆきお


昭和22年2月11日生まれ。内閣総理大臣。衆議院議員・北海道9区選出。東京大学工学部計数工学科卒業、スタンフォード大学工学部博士課程修了。東京工業大学経営工学科助手、専修大学経営学部助教授。

昭和61年 総選挙で、旧北海道4区(現9区)から出馬、初当選。

平成5年  自民党を離党、新党さきがけ結党に参加。細川内閣で官房副長官を務める。

平成8年  弟邦夫らとともに民主党を結党。菅直人とともに代表に就任。

平成10年  旧民主党、民政党、新党友愛、民主改革連合の4党により(新)民主党を結党、幹事長代理に就任。

平成11年  民主党代表に就任。

平成17年  民主党幹事長就任。前原・岡田・小沢と三人の代表を支える。

平成21年  民主党代表に就任。第93代内閣総理大臣に就任。


 


インタビュアー:『月刊中国NEWS』 編集長 張一帆


『月刊中国NEWS』 10年06月号掲載