top of page

第08回 伊藤忠会長 丹羽宇一郎



伊藤忠商事は日本を代表する商社の一つとして、1985年の創業以来、約一世紀半にわたって各種商品の国内、輸出入および海外取引、さらには金融、建設、倉庫などを多角的に行なってきた。また、伊藤忠商事は中国を非常に重視する企業でもあります。北京五輪が閉幕し、中国経済は停滞するのではないか、とも噂される昨今、伊藤忠商事の丹羽会長は西部開拓が進めば、「世界の工場」としての中国はまだ健在であり、今のところ「中国に代わるような国はない」と語った。丹羽会長は中国をどう見ているのか意見をうかがった。


中国は決して難しい市場ではない

――中国にはよく行かれますか?


よく行きますよ。劉淇氏が市長になった頃から顧問をしていて、世界の大企業から20人くらいが顧問になっています。北京オリンピックの開会式にも夫婦で招待されました。それからまた1、2ヵ月ぐらいしてまた東北三省に行きます。4年目ぐらいでしょうか。胡錦涛国家主席が東北振興計画を打ち出してから私が伊藤忠グループを連れて毎年ミッションに行っています。それから江蘇省・吉林省の顧問もしています。だから結構行っていると言えるでしょう。


――中国に合弁会社が多くありますね。

日中国交回復の半年ぐらい前から、日本で一番早く(現地に)事務所を開きました。今、中国は伊藤忠にとってアメリカと双璧をなしています。中国で投資している会社が約250社ありまして利益はちょっとアメリカに負けるかなというぐらいです。総投資額は6億ドル(約660億円)ほどで取り扱い高が1兆円。中国人も含めて、4万5000人から5万人くらいの雇用創出に貢献していることになります。中国の経済がおかしくなれば伊藤忠もおかしくなるというほどの状態です。


――中国での経営は難しくありませんか?

中国が特に難しいとは思いません。どこの国へ行っても、いい人も悪い人もいます。悪い人のことばかり言ってもきりがないですし、良い人のことばかり言っても間違う。だから、どこが一番やりにくいかと言われても、中国が一番やりにくいとは思いません。なじみがないという意味では、インドが一番なじみがないでしょう。なかなかインドとは共通の文化がありません。中国は儒教の精神とか共通の部分があるので馴染みやすいです。ただ違うのは、市場主義というか資本主義社会に習熟してない部分があるので、日本人としては戸惑う部分があるんじゃないでしょうか。また、人材の獲得が難しいでしょう。胡主席も世界の人材獲得競争時代がやってきたとも言っておられます。伊藤忠は中国で35年か36年ほど仕事をしていますが、特に最近は人材確保が難しいです。

あとは何が問題かというと、中国は国土が広いので、どこで何をすればいいのか分からなくなってしまうのです。私の場合は、中国を華北や華南など六つぐらいに分けて、仕事をしやすくしています。

一方、日本は国土が狭くちょっと歩けば海に落ちてしまうような部分がある。経済についてですが、日本は底が浅いというか、ちょっと(経済が)悪くなると全体が悪くなってしまうところがあります。でも中国は広くって沿岸部は土地のバブルとか色々言われ、コストも上がっています。ですが、西に行くに従って今度はそんなこともなくなってくるわけです。さざなみのように、西へ西へと少しずつ移動していけば、中国の世界の工場という位置づけも段々と広がっていくでしょう。ですから、(中国)西部で作った製品を海外に持っていくというようなことは可能だと思っています。

私の経験から言うと、中国人は本当に信頼できるようになると日本人以上に信頼できるようになるのです。信頼できないという話をするなら、そういう人間は日本にもいますし、簡単に計算すれば、人口が日本の10倍いるのですから、10倍悪い人もいれば、10倍良い人もいるでしょう。どっちが多いかと言われてもなんとも言えません。

ですから、中国が特に難しいということはありません。あえていえば、人治主義みたいなものがまだ残っていて、人と人とのコネクションがあるということ、そして今までの社会主義体制はどれだけ売るかということではなく、どれだけ作るかということが評価される。つまり、たくさん作った人が評価させれてきたのです。しかし、資本主義の社会ではどれだけ売って利益を上げるかということが重視されます。そこにギャップがあります。

また、中国は資本主義として、まだ世界的な標準にきていませんから、どうしても汚職とか贈収賄とかが多いのです。中国は3000年、4000年の歴史がある中でずっとそういうことはあっただろうし、日本もずっとあるのです。人が住むところには必ずあるものです。ですが、中国はその比率が高い。なぜなら、刑罰が軽いからです。しかも、悪いことをしても人治主義でもみ消してしまう。総書記を知っているとか、市長を知っているとか、まあ日本でもやっています。ですが、日本はそれが少ないです。中国はもっと透明度を高くしなければいけません。そうすれば、もっともと海外から中国にやってくるのではないでしょうか。


食品問題の解決策は教育にある

――日本の食品自給率は40%です。中国からの輸入も多くあるかと思いますが、中国の食品に関して安全面などどう評価していますか?

日本の食品でも偽装事件などは多いです。食品は誰も見ていない間に混入してしまえば分からないわけでしょう。豚肉と牛肉にしても、多少なら混ぜてしまっても分からないのです。日本でもしょっちゅうやってます。中国でもそのぐらいのことはやっているのではないでしょうか。ただ、それで病気になるとか、死んでしまうとかは良くないですね。そういうのは日本にはあまりないです。それでも愉快犯で混入させる人はいるでしょう。中国の餃子事件もそうですが、あの工場は最新設備の整った工場だったわけです。日本が世界一の技術を持っていって作っている。だから製品で問題は起こらないのです。

問題は、機械が立派であっても、必ず手を洗ううがいをする、消毒をするというような作っている人間の意識にあるわけで、それをすべての従業員に徹底させるのは非常に時間がかかるのです。従業員の教育をしっかりすることが、これからの食品製造業界には大事になってくるでしょう。たとえ意識を変えることが出来るにしても、日本でだってしょっちゅう起きていることなのです。時間がかかるけれども、みんなが意識をもって改善に努力していってもらわないと、我々も心配なのです。もちろん伊藤忠も信頼して輸入はしていますが、もし問題が出てくれば全部焼却しなければならなくなります。だから輸入するときはしっかりと検査するのです。これも時間が解決することでしょう。


――伊藤忠はお話いただいたように食料問題に取り組んでいますが、現在の食糧不足と言われるような事態をどう考えていますか?

それでも今年はだいぶ落ち着いてきました。天気が少し回復してきているので、今年は大きな問題はないでしょう。これからは新しい種子の開発であるとか、トラクターなどの新しい農業の技術を導入すれば生産量はまだ伸びるでしょう。そうすれば十分にやっていけると思います。


インタビュー:『月刊中国NEWS』 編集長 張一帆

『月刊中国NEWS』 08年10月号掲載

bottom of page