日本の2大鉄鋼グループの一つであるJFEグループは、環境問題にも積極的に取り組み、省エネルギーを実現する技術も数多く開発してきた。08年5月には、訪日した胡錦涛国家主席がJFEグループのリサイクル施設を視察。JFEの環境への取り組みを高く評価した。
バランスのとれた永続的な企業経営を目指すJFEホールディングスの數土社長に、経営哲学や環境への取り組み、世界経済の中で中国が今後どう進んでいくべきかなどのお話をうかがった。
胡主席に会った時の印象
――今年5月、胡錦涛国家主席が来日した際、御社のリサイクル施設を見に来られたそうですが?
はい、JFEの京浜地区の製鉄所の中にあるペットボトルのリサイクル施設をご視察いただきました。
その時、私が胡主席に申し上げたのは、地方行政とのタイアップが重要であるということです。特に環境問題への取り組みでは、中央政府とタイアップすることはもちろん必要ですが、もっと重要なのは地方行政や周辺住民と製造業者がタイアップしてやらないといけないということです。我々は東京都心から20Kmの京浜地区で製鉄所の存続のために、あらゆる努力をしました。近隣地域の排出する廃棄物を処理し、リサイクルし、再資源化する事業も行っています。ペットボトルのリサイクル施設もそのひとつです。国、地方行政、企業、地域住民が一致協力して、製鉄所は都市と健全に共生することができることを証明しました。そのことを胡主席に直接申し上げたところ、胡主席からは「非常によく分かりました」と言われました。
また、胡主席と一緒に来られた劉夫人は、精華大学で工学関係を勉強していた時の同級生であると聞いています。ペットボトルの廃プラスチックを溶鉱炉に吹き込むということをご説明した際、劉夫人は「こういうペットボトルは200度や300度で燃えてしまう。溶鉱炉の熱源は1600度ほどになる。その熱源になるとは不思議ですね」ということを質問されました。私はなんという素晴らしい質問だろうと思いました。その時、私は非常にうれしく思い、それが顔に出ていたと思います。横にいた胡主席も夫人の質問に私が感心したのを見て、とてもうれしそうな顔をしていました。私はそんな胡主席を見てまたうれしくなってしまったのです。愛妻家であるなあと思いました。
JFEグループのリサイクル工場を視察した胡錦涛主席と握手を交わす數土社長
(08/05/09)
リサイクル工場内の高炉模型前で、使用済みプラスチックを高炉の原料として使っていることに対する
説明を受ける胡錦涛主席(中央)と劉永清夫人(右端)
(08/05/09)
――中国も環境事業に力を入れ始めていますね。
今、企業やビジネスは継続的、永続的であることが大事であると世界は考えています。永続的な企業であるためには永続的に地球環境を保つことが大切です。ですが、中国は今、発展をしないといけないがために、これはやむをえないことですが、特に地方で急速に開発が進んでいます。建設には鉄やセメントなどの資材が必要です。ところが早く間に合わせるためには、経済的にも、時間的にも十分に環境に配慮する余裕がなかったのではないでしょうか。それが今、非常に問題になっています。中国の環境問題が世界中の注目を集めているわけです。胡主席はエンジニアですからよく分かるのでしょう。これは国家の問題ではありません。環境が悪くなればそこに住む地域の住人、つまり中国人が、生活できなくなってしまうということです。環境事業を進めるために、胡主席は、自分が日本でこういう施設を見たということを、中国国民や世界に知らせるため、そしてどういう気持ちで日本の企業がやっているのかを見るために来られたと思うのです。
本当に環境を大切に思ってやっているのかどうか、が大事な点です。金儲けのためだけにやっていても継続的な企業にはなりえません。一種のモラルを、国家も企業も、また個人も持たなくてはなりません。胡主席は、国家、地方行政、企業、そして住民が三位一体、四位一体となって環境問題に取り組まなければいけないと思われて、見学に来られたのだと私は思います。素晴らしいことです。
――JFEの環境への取り組みを教えてください。
環境はJFEグループとして最も重要視しているテーマです。我々は環境のために、今までに約1兆円を費やしてきました。特に、最近では、京都議定書の達成に向けた地球温暖化防止対策に注力しており、2006年度~2009年度の4年間で約1000億円の投資を行い、年間420万トンのCO2削減効果を見込んでいます。また、環境対策に関わる経費も年間800億円程度かけており、温室効果ガスの排出削減の他に、排水・排ガス・化学物質の排出の低減により徹底した環境保全を図っています。更には、鉄鋼生産の過程で発生する副産物の有効利用も積極的に行っています。
企業の生産活動には環境負荷が避けられません。JFEグループは企業行動指針に「地球環境との共存」を掲げ、環境負荷を少しでも軽減するために、製造・輸送・加工・流通という一連の企業活動の中で最大限の努力をしています。
世界的な流れと中国への影響
――世界経済を見ると、サブプライムローン問題や原油高騰など世界的に大きな問題が立て続きに起こり、各国に影響が出始めていますが、特に中国経済への影響をどう見ておられますか?
影響は非常に大きいです。みなが予想しているよりもっと大きいと私は考えています。世界経済に影響を与える重大な現象が世界中で三つ同時に起きているのです。サブプライムローン問題による経済の混乱・ガソリンなどのエネルギーや資源の高騰・不動産バブルの崩壊がその三つです。
まずサブプライムローン問題では、サブプライムローンから派生するものはすべて証券化されたために、いろんな証券市場で、どれがどれだか分からなくなってしまっているのです。この影響を、まずアメリカ・ヨーロッパの金融機関が受けました。サブプライムローン問題は、証券・債権の評価の問題から、信用収縮や金融機関の貸し渋り、住宅・資産価格の下落という形で、実体経済へと問題が深刻化し、巨大な悪影響が全世界に広がってきています。半年や1年では終わらないでしょう。どんなに少なく見積もっても3年はかかると思います。
もう一つの現象、エネルギーや資源の高騰に関して言えば、新興国は、豊かになりたいがために、エネルギー効率のよくない設備で大量生産して輸出してきました。今、アメリカ・ヨーロッパが不景気であるために、輸出しにくくなっています。もし輸出を止めないといけないということになれば大変な影響が出ます。その上、生産するのにエネルギーを大量に消費する設備であったり、炭酸ガスをたくさん出す設備があったりする中で、石炭もガソリンもみな高くなってしまった。これはダブルパンチです。
また、不動産バブルについてですが、サブプライムローン問題が爆発する直前まで世界中がこの問題を分かっていなかったので、上海でも、北京でも、ロンドンでも、マドリードでも、シドニーでも、世界中で金を貸してやるから使ってくれと言うものですから、不動産に使いました。その不動産バブルが世界中で崩壊し始めています。金を返しきらないのにその価値がどんどんと下がっていく。中国の不動産もまだ下がると思いますが、冷静な気持ちで対処していくことが必要でしょう。
また、世界的な環境規制も我々に影響を与えています。特にヨーロッパは環境に対する意識が強いので、環境や省エネルギーに配慮していない鉄を輸入しないと言ってくる可能性があります。カーボン・フット・プリントの思想です。中国も北京オリンピックの成功で一流国家であることを証明したわけですけれども、一歩引いて環境や富の配分を考えた上で、リストラクチャリング(再構築)をしないといけない。まさに中国の鉄鋼業がその状況にあると感じます。 。
インタビュー:『月刊中国NEWS』 編集長 張一帆
『月刊中国NEWS』 08年11月号掲載
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