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第37回 NPO法人 健康保養ネットワーク理事長 大塚吉則



NPO法人である健康保養ネットワークは、北海道の自治体から事業を請け負い健康促進のプログラムなどを作成し、実践する団体であり、その中でも特徴的なのは温泉を利用していることだ。温泉と森林浴や運動・食事療法や自然療法をあわせることで病気をしない身体作りを目指す。中国の人々に観光地として注目される北海道で、中国の人々にも健康促進をしていただきたい、と大塚吉則理事長が自然療法の良さを語る。



温泉研究のきっかけと登別温泉の特徴

――温泉を研究し始めたきっかけは?


アメリカに留学している時に北海道大学の登別温泉付属病院でお誘いがあり研究の発端となりました。登別といえば日本の代表的な温泉地であり、北海道大学も永年の温泉医学の研究実績があり、良い環境もあったので、温泉の研究を始めることになりました。本来は糖尿病や高脂血症などの研究をしており、生化学の研究をするためにアメリカへ渡ったのですが、登別に来てからはそれまでとは全く違う温泉の研究をすることになったのです。

 

――登別温泉の特徴とは何ですか?


 北海道の登別温泉を大別して五つの特徴にまとめると、第1の特徴は「地獄谷」と呼ばれる代表的な源泉エリアの名の示すように豊かで、豊富な湯量であること。第2は近くの間欠泉の「大正地獄」、噴火で出来た「大湯沼」など小規模の火山活動が産みだす多彩な9種類もの泉質をもつ温泉が集中していること。第3はドイツが炭酸泉を中心とした低温泉で構成されているのと好対照に40~50℃から130度と高温に恵まれていること。第4は著名な旅館・ホテルが多く、しかも旅館によっては複数以上の温泉泉質をもつ贅沢な配備を誇ること。そして第5は登別温泉地は豊富な自然条件を持つことで、山岳・森林・高原・海岸線を利用した保養活動が多彩に楽しめることです。


以前は、少人数のグループで一つの宿でも湯船が硫黄泉・酸性泉・重曹泉というように分かれていて、そのまま源泉を使っていました。ですが今では多くの人が入浴し利用するため、お湯を循環させていたり、消毒したりしています。しかし、それも仕方ないことではあります。しかし、登別温泉の持つ高温性はそのままですから、身体が温まれば血流が良くなりますし、血流が良くなれば痛みが少なくなる、血圧が下がるといった効果があります。やはり色々な泉質の温泉を楽しむのが良いでしょう。


当然、泉質ごとに効果を説明することは可能ですが、昔の様にその泉質の純粋な温泉に源泉のまま利用できる設備確保が今後の課題ですし、私達健康保養ネットワークも努力しています。


登別温泉の場合は地形にも特徴があるといえます。片側に山があり、もう片側には海がある。その真ん中に温泉があるわけで、山の気候の影響を受けると同時に、海の気候の影響も受けるのです。ですから、気候の差を利用した気候療法に適した場所であるといえます。また、新千歳国際空港から割合と近いこともありますし、海の幸も山の幸も豊富ですから、リフレッシュするには良い場所です。



――北海道は中国人観光客にとって非常に注目されている場所です。自然療法だけでなく、観光も積極的に取り入れていくという考えはありますか?

我々健康保養ネットワークは、健康促進を目的とした団体であり、観光要素はワキ役として大切ですからその位置づけに特別な配慮をしています。ですから、まずは地元の人々の健康促進の成果をあげており、その活動や保養行動を通して、外国からの人にもこの輪に入っていただき、お互いに健康を確認し喜びを分かちたいのです。そのような意味合いで、他の場所からやってくる方々を喜んで受け入れるべきであると考えています。

 

私たち健康保養ネットワークには〝リムセ・ツーリズム〟のテーマで健康づくりを輪になって楽しく踊ろう!があります。北海道はアイヌのふるさとであり、〝リムセ〟とは楽しく輪になって遊ぼうの意味で、私達の活動の原点としています。


現在、北海道の各地へと健康保養ネットワークの活動が広がり、それなりの効果が見られているので、外からの人々を受け入れ、リフレッシュしていただこうということになっているのです。地元の人が不健康では、外から来た人も元気になれる気はしませんから。それに、元気になれば〝リムセ・ホスピタリティ〟もわいてくるでしょう。

 

中国と保養地としての温泉

――中国人留学生の方も教えていると聞きますが?


 はい、3人教えています。皆さんまじめです。瀋陽師範大学や燕山大学などの学生さんです。そのうち1人は中国の温泉地の研究をしたいということで、吉林省にある長白山温泉群の、観光だけにとどまらない温泉保養地を開発する方法について研究しています。中国にも健康保養地を作りたいという考えは持っているようです。もう1人は森林浴について研究しており、中国でも森林浴によるリラクゼーションを広めたいとのことです。最後の1人は栄養学について学んでいます。私の生徒は漢方などの知識はありませんので、それも同時に教えながら授業を行なっています。 

  

――香港と台湾には行かれたことがあるということですが、現地で温泉に関する意見交換などは行なっていますか?


香港はプライベートな旅行ですが、台湾では意見交換を行なっています。リハビリ関係の方で、その活動の際に温泉も活用したいということです。その方とは3年間のお付き合いがあります。最初は向こうから北海道に来られて、現地の温泉保養活動を見学され、その次は私が台湾へ行き、温泉保養についてレクチャーして、台湾の温泉地を紹介していただきました。


台湾の温泉地と日本の温泉地は似ています。ともに火山がありますから。また、日本の統治下にあった時期もありますので、その点で文化面でも似た部分があります。ただ、やはり観光の面が強いです。最近では健康促進にも使われ始めていますがごく一部で、本格的な展開はこれからだと思います。私が接している方は研究者なので、温泉を利用してどのような治療ができるかに関心を持たれており、また自然療法を台湾でも取り入れたいと考えているようです。

 

 

温泉文化の今後に向けて

――温泉行政の促進貢献をされているそうですが、これは具体的にどういったことをされているのでしょうか?


温泉には温泉の掘削と動力装置の許可申請が必要です。この際に部会が温泉として的確かどうかを審査しているのですが、私はそのメンバーなので、温泉行政とはそういったことを指しています。また、行政の依頼を受けて、温泉に関する講演を行なっています。



――日本の温泉文化とは一言で言うと何でしょうか?


温泉は日本人にとって「心のふるさと」だと思います。



――健康保養ネットワークのこれからの目標は?


やはり、活動拠点がほしいです。事務所はありますが、それだけではなく自然療法が実践できるプールなどの施設が必要だと考えています。ここにくれば健康になれるということです。現在は、各自治体の施設を借りて活動を行なっていますが、場所が一定しないのが悩みの種です。出向いていくことも悪くはないですが、海外から参加していただく際にも、拠点があったほうが便利ですから。



――中国の人々に伝えたいことは何ですか?


 せっかくの温泉なので健康促進や医療の面でもぜひ利用していただきたいということです。そのためには温泉に関する治療の知識と技術を学んでいただきたいと思います。また、これが日中文化交流の一つのきっかけになればと考えています。


 まさに漢方をめぐる東洋医学と早い時期から西洋医学を容れた日本の、医学の中日融合の場として北海道、特に温泉自然豊富な登別が中国の方たちの中期・短期の滞在型の癒しの場とたることを望んでおります。


 そのために、私たち健康保養ネットワークは日々活動をしております。


 




インタビュアー:『月刊中国NEWS』 編集長 張一帆


『月刊中国NEWS』 11年06月号掲載






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