top of page

第07回 環境大臣 鴨下一郎



7月7日から開かれた洞爺湖サミットでは、コンセプトの一つに「環境との共生」が掲げられ、環境問題が主要なテーマとなった。世界をリードする環境先進国日本は、未曾有の経済成長を続ける中国に、どんな警鐘を鳴らしていけばよいのか。積極的に中国を訪問し、環境問題への協力関係の構築に取り組む鴨下環境相に聞いた。


中日中協力関係の現状

――大臣ご自身は、中国に対して、どのような印象をお持ちですか?

以前から何度も行っていますし、大臣になってからも2回訪問しました。毎回行くたびに感じることは、今まさに経済が大変なスピードで発展しているなということです。そして、最初に行ったころの上海と、最近行く上海はもうぜんぜん別の街になっていますね。30年前に上海に行った時には、古い歴史の街だなと思いました。川があって、その向こう側の浦東(プトーン)地区は、まだ何もありませんでした。それが、今行くと、素晴らしい建物がどんどん建っていて。経済発展によって、毎年毎年違うものになっていく、そういうような印象があります。


――中国は今、経済成長によって様々な環境問題が発生しています。日本は環境問題の先進国として、中国に何を伝えていくことができるでしょうか。

私は今59歳ですが、ちょうど私たちが青春時代だった10代、20代のころ、日本は高度経済成長期で、すごい勢いで経済が発展していきました。そのころの感覚から言うと、今の中国は当時の日本のような経済成長をしていると感じますね。1964年に東京でオリンピックがあった。そして今年、2008年に北京でオリンピックがある。そういう点からも、似ている状況だと思います。

経済が成長していく中で、私たちが振り返ってみて反省しなければいけないのは、経済の成長を最優先させていったがゆえに、多少環境のことを忘れてしまって、後でいろいろな問題を残してしまったことです。例えば、大気や水の汚染の問題。そして結果的に、一番心が痛むのは、水俣病のような、我々も最初は知らなかったけれども、メチル水銀のようなものを垂れ流してしまって多くの犠牲者を出したことです。こういうようなことをぜひ、悪い教訓として中国に学んでいただきたいと思います。そして、それに対して今しっかりと対策するということがとても大事です。経済成長の時というのは、やはり光の当たる部分にだけ目が行きがちですが、実際にはいろいろな弊害も、同時に起こっているということをみんなが認識しておかないと、後で、それに対しての代償がとても大きくなってしまいます。そこも、ぜひ日本の教訓を学んでいただきたいと思います。


――環境問題について、これから日中間はどのように協力していくべきなのでしょうか。

戦略的互恵関係を構築していくという意味で、私は日中の二国間関係は、世界に貢献する二国間関係にならなくてはいけないと思います。それは、今問題になっている気候変動、地球温暖化、こういうものに対して、日中が協力して取り組まなければいけないという点が一つあります。

それから、もう一つは、日本と中国は隣の国ですから、自分たちの国でのいろいろな環境問題は、お互いの問題になるわけです。国境はあるけれども、空気はつながっているし、水はつながっていますから。また、いろいろな汚染物質等が、どこから出てくるということではなくて、全体を抑えるために両国がきちんと協力しないといけない。そのためには、情報の共有や信頼関係が重要です。中国は環境保護総局が(日本の省にあたる)環境保護部になって、周生賢大臣とは個人的にもつきあいがありますし、お互いに厚い信頼関係があります。そういう中で、黄砂の問題や国境を越えて移動する汚染物質の問題などについて、情報を共有して協力しましょうということで、しっかりと取り組んでいます。そしてさらに、私たちが中国に協力できることがあります。例えば北京の空は、特に冬などは、スモッグのひどい状況があります。ですから、例えば、エネルギー効率のいい、発電所だとか、自動車だとか、こういうものについてお互いに協力しましょうよということで、コベネフィット・アプローチ(※1)というものを始めようとしています。コベネフィット・アプローチとして、まだ内容は検討中ですが、四川省の都市をモデル都市として、大気、水などをいくつか組み合わせた形で事業を始める予定もあります。こうした計画は中国の環境保護部と私たち日本の環境省とが協力して行なっています。

日中はまず、戦略的互恵関係のもとに協力して、地球環境に貢献していかなくてはなりません。それと同時に、日中は隣同士の国ですから、環境問題は、自分の問題であり、お互いの問題となります。それについてはしっかりと両国が協力して、持てる技術・資金をお互いに上手に使って取り組んでいこうと、大臣同士でも話し合っています。


――日中間には、黄砂の問題もあります。環境省はどういった活動を行なっていますか?

黄砂の問題については、去年も日中韓の環境大臣会合をやりました。黄砂対策に関する地域協力を進めるために、局長級の会合を設置して、今年から、黄砂のモニタリングや、どこから発生してくるのかということについての共同研究を始めることに決まりました。それから、中国と日本とは、黄砂観測のデータを共有して、北東アジア地域のモニタリングネットワークの構築の実現に向かおうということになりました。また、黄砂が起こってくる砂漠化地域では、日本の民間団体等が活動していますので、そういうところに協力していこうということで、日中緑化交流基金等を使った取り組みが行われています。


四川大地震による環境汚染

――四川大地震による環境汚染について、懸念されることは?

まず、犠牲になられた方、いろいろな被害を受けられた方に私たちは心から、お見舞いを申し上げたいと思います。1日も早く、皆さんがそれぞれ立ち上がって、元気な暮らしに戻ることを願っています。

そして、日本も阪神・淡路大震災などで経験しましたけれども、地震、あるいは災害の時には、様々な予期せぬ汚染物質のようなものが、土壌、あるいは河川に流れ出すということが懸念されます。しっかりとモニターをして、そうした汚染が起こらないように、そして起こったらすぐに対応できるようにすることが、まず必要だと思います。それから、いろいろな建物が壊れると、今までは、建物の中にあったアスベストのような物質が、散乱する可能性があります。復興にあたって、みなさん一生懸命、瓦礫などを片付けていると、思わぬときにアスベストのようなものを吸い込んで、後で気がついた時には被害が出てしまうということがあります。地震が起きてすぐというのは、みんな一生懸命ですから。気がつかないうちに、そうしたホコリを吸い込んで、肺の中にいろいろな問題が起きることも考えられます。あらかじめそういうことも慎重に気をつけながら、活動することが必要かと思います。


――例えば工場からの汚染物質が土壌に流れるなどの問題も懸念されます。

それには、例えば化学工場などの場所、流れ出る可能性があるところについて、しっかりとモニターをしていくということが一番大切だと思います。そして、その次の段階で、万が一、そういうことで土壌が汚染された場合には、きちんと対応しなければいけませんけれども、それは技術的にも、資金的にも大変な労力を要する場合があります。そういうことについてはまた改めて、日本にもノウハウ、知恵がありますから、協力させてもらいたいと思っています。ただ、まず最初は、汚染物質の流れ出る可能性のあるところを、注意深くモニターして、検査をしておくということが一番重要です。

インタビュー:『月刊中国NEWS』 編集長 張一帆

『月刊中国NEWS』 08年9月号掲載

bottom of page