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第06回 早稲田大学教授 榊原英資



人民元切り上げや、今年に入ってからの上海市場の大暴落など、中国は次第にバブル経済への道を歩み始めている。そして2008年4月24日、中国政府は株式市場に介入し、証券取引印紙税引き下げによる市場救助策を講じた。中国政府がバブルに対する警戒を強める中、「ミスター円」と呼ばれる榊原氏は政府の市場介入につて、「本来やってはいけないこと」と言う。また、「市場経済にはどうしてもバブルは発生する」とする榊原氏が今後の中国経済を大胆に予測する。


中国経済、バブルへの道

実にバブル経済に突入している」と言われましたが、その時どういった根拠からそう言われたのでしょうか?


上海の株式市場を見ても、非常に短期間でに急速に上がっていました。一国の経済が、あれだけ短期間に急速に、企業が収益を上げるなんてことはありえないですから。ということは株式の価格がバブルだったということです。それが典型です。秋に崩壊しましたね。


――中国A株の市場では、半年足らずの間で50%もの大暴落となりました。それにともないこのほど中国では、証券取引印紙税引き下げによる市場救出策を採りました。政府が市場救出策を採るべきではないと主張される榊原先生は今回の政策をどう評価していますか?


適切ではないですね。政府が株式市場に介入するということは普通は行なわれないのです。どんな国でも先進国では、株式市場に政府が介入することはないです。一時、東アジア危機の時に香港がやったことありますけれどもこれは極めて例外的なことです。ある種の社会不安になったから、中国はやったんでしょうけれども、株式市場に政府が介入するということは本来はやってはいけないことなのです。


――中国は社会主義市場経済と言われますが?


それでも政府が直接的に介入するような株式市場というのは、信用できなくなりますからね。政府が株価を操作してしまうことになるでしょう。そういうところは、まともな人は投資しなくなります。為替ということについてはオーバーシフトした時には、介入するということが許されていますが、株式市場に介入するということは、基本的に市場経済では行なわれないことです。だから社会主義的市場経済というものの解釈の問題になりますが、少なくとも市場経済であれば、政府が介入すべきではないと思います。



どうしてもバブルは発生する


――現在、中国の不動産および株式市場は、十数年前の日本と似た部分があるかと思います。榊原先生も中国経済が「二重の性質」を持つという言い方で、中国は日本の20世紀の高度経済成長期と、1985年以降のバブル期の特徴をあわせ持っていると言われています。では中国の経済はどうすれば健康に上手く発展していけるのか、日本の経済界で35年にわたって政策制定にかかわってきた榊原先生のアドバイスをお願いいたします。


中国は日本よりも発展の度合いが速いので二つ同時に起こっているのです。要するに成長の度合いが速いという意味です。


いろんな形での金融監督みたいなものは段々整備されていますからね。特に銀行については監視委員会があって。私は劉明康氏(現中国銀行業監督管理委員会主席)というのは良く知っています。人民銀行の副総裁やってましたから、その時私は財務省にいまして、ちょうど劉氏が私のカウンターパート(受入れ担当者)でした。


そういうある意味での監督機構みたいなものを今整備しているところですね。いずれ、国営銀行が民営化されるということになっていくでしょうけれども、そのプロセスを上手くやるということが大事でしょう。今度の株式市場の話でもそうですが、どうしてもバブルは発生するものです。そういう時にどういう形でウォーニング(警告)を出すかなど、そういうことも当局としては大事なことですね。


――世界的な食糧価格と、エネルギー製品価格の継続的かつ大幅な高騰の原因は何にあるとお考えですか?このような状況で、中国政府はどういった経済政策を採るべきだと思いますか?


中長期的に見ると、エネルギーと食糧は不足するものです。それは要するに、中国もそうであるし、インドもそうであるし、急速に中産階級が世界中で増えてきてます。その傾向は今後とも続きますから、その人たちが自動車をもち、冷暖房をして、肉を食べてということになると、どうしてもエネルギーと食糧は中長期的に不足することになるわけです。今はスペキュレーティブ(投機的)なお金が入ってきて、急速に上がっていますが、これが下がることもあるでしょう。ですが、乱高下しながら、傾向的には上がっていくと思うのです。


そういう意味で、21世紀の稀少商品はエネルギーと食糧のです。むしろ、製造業の製品・ハイテク製品は段々価格が下がっていきます。そういうことですから、20世紀とは違うトレンドができてくるということになります。当然、各国政府ともエネルギーの確保、あるいは食糧の確保ということについて、あるいは原材料の確保ということについて、努力をしなくてはいないんですが、中国政府は、日本に比べると非常に積極的にやっていると思います。日本政府が全くやってないので私は日本政府に批判的なのです。例えば中国のアフリカ外交などを見ると、やっぱりとても積極的にアフリカ外交しています。まあ、その目的のひとつが資源とかエネルギーの確保ということですし、また中国とロシアの関係なんかも非常によくなっていますね。ですから、非常に戦略的に対応しているという意味で、中国政府の今のやり方を全面的に肯定しています。少しは日本政府に見習って欲しいと思ってます。



今後、人民元はかなり切り上がる


――為替レートは純粋な経済・金融の問題ですか?それとも、政治の要素をはらんでいますか?「ミスター円」と呼ばれる先生の考え方はどうですか?


それは両方ありますけれども、今後、人民元をかなり切り上げていくでしょう。おそらく今年は10~15%くらい上げるということなのでしょうけれども、それでいいと思いますし、またこういう形でエネルギーや食糧が高くなる時というのは、一国の通貨が高いほうがいいというのがあるのです。少なくとも中国の輸出商品は、若干中国の元が高くなっても競争力が維持できますからね。元高になった部分は、原材料や食糧・エネルギーが安くなるわけですから。


中国はエネルギーも食糧も準輸入国になっています。そういう意味で元高のメリットはあるわけです。元高を恐れる必要はないと思います。確かに、中国の農村に対して悪影響があるということだと思いますが、今国際的に食糧価格上がってますから、そういう時に若干中国の元を上げても、それほど中国の農村に打撃になるということはないでしょうから、やはり元を10%以上引き上げる。場合によってはもう少しペースを上げるということが必要だと思います。余永定氏と付き合いがありまして、余氏の言っていることなどは正しいと思います。


――日本では円高がバブルの引き金になりましたが?


日本の場合は、極端な円高になりましたから、例えばプラザ合意の前は250円くらいだったのが、一気に120円くらいになりました。それがまた80円くらいになったわけです。1985年から95年の10年間に3分の1になっちゃたわけですよ。これはやはりペースが速すぎた。中国の場合にはそういう急激な元高にはなってないわけですから、今のペースで10~15%の幅で上げていくというのは中国のためにもプラスだと思います。




――1980年代、榊原先生が日本金融システムが一種の「異常現象」の状態にあると意識されていた時、「とりわけ、その変化に対する的確な政策を考えていたが、いまだに見つかっていない」と、していましたが、当時どんな政策を試しましたか?

当時どういうコンテクストで発言したのかよくわかりませんが、80年代はバブルの時代です。市場が一気に上向く時、市場経済の状況において当局がバブルを抑えるということはなかなか難しいのです。不動産バブルが生じて、銀行に貸し出し規制などかやりましたよね。ですけれども、どういう形でそのバブルの形成とバブルの崩壊を当局がコントロールするかというのは、なかなか難しいですよ。それは今の中国でも同じだと思います。80年代の日本も非常に難しかったのです。これは、ある意味で市場経済の宿命みたいなところがあります。市場経済は必ずバブルをつくりますから、そのバブルが弾けるというプロセスのです。だから、そこをうまくモニターしなければいけないのですが、なかなか難しいんです。だから恐らくそういうことを言ったのだと思います。


――当時のバブルを抑える方法として、今であればどういう方法があったと思われますか?


いろんな形での金融でしょうね。その時には金利を上げる。実際に量的に規制するということをやったわけですよね。貸し出し規制みたいなことをやった。中国もできます。不動産に対する貸し出しの規制みたいなことをやるのかどうか。そういう判断がありますよね。



中国不動産価格は「下がってくる」


――2008年4月10日、銀行間外国為替市場でドル・人民元のレートが7対1を突破し、6・99対1となりました。これにより、人民元為替レート「6時代」へと突入しました。人民元の断続的な値上がりは、「人民元の妥当なレートはどの程度なのか?」という疑問を生んでいます。榊原先生はどうお考えですか?


妥当なレートというのはなかなか難しいですね。ですが、中国はまだ非常に成長率も高いですし、急速に近代化しているわけですから、傾向としてずっと元が切り上がっていくということは当然ですよね。かつて日本が360円から今は103円くらいですが、だいたい3分の1ほどになったわけです。中国もこれから20年、30年後を考えると、日本と同じように元がどんどん高くなっていくでしょう。ただ、あんまり急激に高くなっても困りますから、その辺は上手くコントロールしていくということでしょうね。


――中国の不動産価格が下がると判断された理由は何ですか?


これは中国だけでなく、世界的に不動産バブルなのです。去年の夏から、アメリカもついに不動産価格が下がったわけです。それでいわゆるサブプライム問題というのが起こってきたわけです。それから、イギリスなんかも不動産価格が下がり始めている。インドも中国も不動産価格高騰していますが、これは相当バブル気味ですから、これもやっぱり影響を受けて下がってくると思います。


――中国政府はどのような対策を採れば、最も効果的に金融システムの安定を図ることが出来ると思われますか?


金融監督みたいなことに取り組む組織ができてやってますが、それが全国的に金融の姿をある程度コントロールできるような形をどう整えるかということです。金融市場が大きくなり、あるいは多くの人がマーケットに参加する中で、金融監督体制というのを強化するのは非常に重要になります。まだ先進国並みの金融監督体制にはなっていないと思いますから、それを次第に強化していくことは重要だと思います。



――中国はマクロ経済政策を採っていますが、マクロ経済政策の中で有効なものとは?


マクロ経済政策の運用にあたっては、中国は今、マクロ経済全体がバブル気味ですよね。だから、これは軟着陸させる必要があります。中国の経済成長率はまだ10・5%くらいですか?恐らく次第に8%くらいに下がってくるでしょうから、そこを軟着陸させる。政府の五カ年計画の目標というのは8%くらいでしょう?そこに軟着陸させなければいけない。今10・5ですから、3%くらい下げなければいけない。それはなかなか大変です。これをうまくやっていくというのが、今後の当局の課題です。乱高下しないでスムーズに下げていくというのはなかなか難しいですから。


インタビュアー:『月刊中国NEWS』 編集長 張一帆

『月刊中国NEWS』 08年8月号掲載


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