第35回 中国市場は各国集まる「オリンピック」会場



拡大を続ける中国市場は現在、世界的に注目されている。日本のコンサルティング最大手である野村総研コンサルティング事業本部の此本臣吾本部長は、「中国はある意味『オリンピック』である」と言う。それだけ世界各国から企業が集まる熾烈な市場であるということだ。中国の事情に詳しい此本本部長はまた、中国に関して「心配なのは経済よりも社会と政治の安定」と語る。企業を導くプロの目から見た中国とはどのような存在なのか。中国経済の真の姿が見えてくる。


中国市場は各国集まる「オリンピック」会場

――最近は忙しいですか?


私は2年ほど前まで海外を担当していまして、清華大学と共同でセンターを立ち上げるなどしていました。ですからそのころは毎月1回は中国へ行っていましたが、今は3カ月に1回ほどです。たまたま先週、中国の北京へ出張に行っていました。 清華大学の方々と定期的なミーティングを開いており、清華大学の人文社会科学学院というところがパートナーとなっています。ですが、そこだけではなく清華大学であれば経済管理学院や公共管理学院、また金融関係であれば中国人民大学とも組んでいます。清華大学が8割、他が2割といったところで、経済・金融・都市化・イノベーションなどの問題をテーマとして幅広く共同研究をおこなっています。


 

2010年、労働争議と日中の冷え込み

――中国では2010年は中国で多くの労働争議がありました。この点をどう考えますか?


日本は1960年代に2桁成長を続ける高度経済成長を遂げ、1970年代半ばは、1年間で30~40%の賃金アップがありました。今の中国よりもさらに急激な賃上げです。ですから高度成長期の中国も賃上げのタイミングになってきたのだと思います。 この件では、労働者と経営側のコミュニケーションに問題があったことが明らかになっています。様々な問題が起こった時に、労働組合が労働者の意見を吸い上げて経営側に伝える役割を果たしていなかったのです。また本来、現場の管理職の中にもしっかりとした中国人のリーダーがいれば、労働者の意見を吸い上げることができたはずですが、それが十分にできていませんでした。中国の有能な人材を登用する経営の現地化が遅れていたのです。 労働者の権利保護を意図した労働契約法が施行され2年が経っています。国の政策もそのように変わったのですから、日系企業の経営もそれに応じた対策を打っていくべきでしょう。今後は日本企業も労働争議に対する準備をしっかりとしていくことになるので、大きな問題になることはなくなるのではと期待しています。



各国が競い合い、変化が激しい中国市場

――中国市場の特徴は?



一方で中国は世界一競争が厳しい市場だといえます。中国はある意味「オリンピック」なのです。台湾や東南アジアは「アジア大会」で、日本は「国体」です。日本では日本の選手同士で戦いますから「国体」なのです。台湾や東南アジアは日本を中心としたアジアの企業同士の戦いで、欧米企業のプレゼンスはそう大きくはありません。そのため「アジア大会」なのです。しかし中国市場は「オリンピック」です。欧米からも日本からも市場参入が相次ぎ、また強力な中国企業も群雄割拠しています。日本もオリンピックではアジア大会ほど多くの金メダルは取れません。日本で成功していても、「オリンピック」である中国で成功するとは限らないのです。 もう一つの特徴は、変化が激しいことです。ひと昔前までは北京や上海といった大都市の把握に専念指定していればよかったのですが、現在は地方都市の成長が著しいのでネットワークを広げていかなくてはいけなくなりました。日本人ではその変化がよく見えません。激しい変化に対応するため、早急に現地化して中国の人々が中心となる運営に変えるべきなのです。中国人の幹部をもっと育てていくべきでしょう。


 

野村総研の強さは日本の強さ

――野村総研は中国でどのような分野の、どのような活動を行なっていますか?


野村総研にはシステムとコンサルティング、そして業務のアウトソーシングという三つのビジネスを中国で展開しています。中国において、最も歴史が長いのがコンサルティングで、これは10年以上前から従事している分野であり、今でも中国事業の中心となっている部分です。コンサルティング事業は現在急伸していて、2010年は伸び率が特に高くなっています。以前は日本企業のお客様が多かったのですが、今では日本企業のお客様の比率は半分以下になっています。現地の政府や現地の企業からの依頼が非常に増えています。


――中国の業界内の他の企業と比べた場合、野村総研の強みは何ですか?



昨年は重慶市の国際金融貿易区の発展戦略もコンペティションがあり、我々が選ばれました。いわゆる両江新区と呼ばれる中国内陸部最大の開発計画ですが、そこのマスタープランは我々が作りました。その他にも上海虹橋空港の交通ターミナル開発、蘇州や無錫の工業区の計画立案も我々が作っています。古くは、1995年に我々は天津初の科学技術開発区である天津経済技術開発区(TEDA)のマスタープランを作成しました。 なぜ野村総研がこれだけ中国で政府関係の大型プロジェクトの依頼を獲得できるかといえば、一つには我々が持っている日本のノウハウが中国にとって有益であるからです。産業と都市機能を一体化して開発するという手法は、日本のお家芸と言っても過言ではありません。我々は長年にわたって日本のこのような開発計画を作ってきていますから、その経験が中国で生かされているのです。こういったノウハウは欧米企業にはないものです。 また、我々は情報通信と自動車の分野のコンサルティングも力を入れています。 日本は2000年ごろから携帯電話が3G化し、iモードなどが搭載されるようになりました。非音声のデータ通信のビジネスモデルはこれも日本のお家芸です。中国は今年が3G元年。日本で培われたノウハウがここでも活かされるはずです。 自動車分野も日本がグローバルで最も競争力がある分野です。自動車メーカーの経営はどうあるべきかについて、ここでも日本の経験を活かして中国の自動車メーカー向けにコンサルティングを提供しています。 結局、野村総研の強さとは日本の強さなのです。中国の人々もそれはよくわかっています。我々が中国で競争するのは、マッキンゼー・アンド・カンパニーやボストン・コンサルティング・グループといった欧米系のコンサルティング会社です。 中国のお客様は野村総研の後ろにある日本を見ています。この分野であれば日本が強い、またはこの分野ではアメリカのほうが進んでいるというように考えて、コンサルティング会社を選択しています。 海外でコンサルティング事業を展開する際には「日本の強さは何なのか」ということについてよくよく考えなければいけません。日本にいるときはあまり意識しませんが、海外に出るとこの点は大変重要になるのです。


 

インタビュアー:『月刊中国NEWS』 編集長 張一帆


『月刊中国NEWS』 11年03月号掲載