5月22日、中国の国民的俳優・陳坤(チェン・クン)が横浜市の林文子市長から「横浜友好観光大使」の任命書を受け取り、任期3年で大使の任に就いた。ここからわかるように横浜市は、日本の観光地として中国の人々に横浜のよさを積極的にアピールしている。また、上海万博では日本産業館に出展し、「横浜ウィーク」も開催。その他、「国際コンテナ戦略港湾」の指定獲得に向けた活動や、11月のAPEC開催など注目するべき点は多い。こういったキーポイントや中国の人々の観光誘致について林市長のお話をうかがった。
華流スター陳坤(チェン・クン)を大使に観光アピール
――このたび横浜友好観光大使を委嘱された陳坤(チェン・クン)さんにお会いになった感想は?
本当にさわやかで、謙虚で、礼儀正しい方ですね。あのように若い大スターが中国にいらっしゃることが、とても嬉しくて、心が温まりました。小さい頃からご苦労されている努力家で、人の気持ちを理解できる素晴らしい方だと思います。今日お会いして、私も大ファンになってしまいました。是非、陳坤さんが出演されている映画を拝見し、歌も聴きたいと思います。陳坤さんのお人柄を通じて、横浜の観光の魅力を、中国の方に広く伝えていただきたいと思います。
――上海万博の開幕式に参加されたそうですがご感想を。また、上海万博の日本産業館では横浜ウィークを開催するそうですが、その見所と意気込みをお教えください。
上海市人民政府より開幕式にご招待いただきました。万博史上最大規模といわれる開幕式にふさわしく、スケールが大きく、国際色豊かで、世界を代表するスターも数多く出演し、また10万発もの打ち上げ花火には感動しました。噴水や船を使った屋外のイベントも素晴らしいものでした。この催事に対する中国政府や関係者の方々の並々ならぬ思い入れを感じました。 横浜市は日本産業館に出展しており、6月28日から7月4日まで「横浜ウィーク/海浜浪漫之都・横浜」を開催します。日本産業館の屋外催事ステージを活用して、横浜の知名度と旅行意欲が高まるようなイベントを、横浜の企業のご協力により実施します。著名なフラワーアーティストのKAORUKOさんが音楽に合わせて横浜や上海をテーマとしたブーケをつくり、公募した横浜出身のカップルが人前結婚式を行ないます。また横浜のFM局が音楽番組の公開収録をします。長年中国と交流を続けてきた市民団有志による着物の着付け体験や日本舞踊の披露・水族館の海のショーも行なわれます。また、中国を中心に活躍する人気タレントの小松拓也さんが横浜ウィークの全体MCを務められる予定です。
東京よりゆったりとしたアーバンリゾート、横浜
――横浜市の友好都市である上海市とはどのような交流をしてきましたか?また、上海市にとって参考になるお話はありますか?
横浜市と上海市は1973年に友好都市提携しました。上海市にとっては横浜市が初めての友好都市となります。以来37年間、本当にたくさんの両市の市民の皆様の間で交流が積み重ねられ、相互理解と厚い友情が育まれてきました。 最近では、経済交流や学生の留学プログラム、水道分野での技術交流などを行なっています。また、横浜港と上海港は友好港でもあり、港湾技術交流なども行なっています。 私は上海市からご招待いただき、開幕式に出席するため4月末から上海市を訪問し、上海市の目覚しい発展を改めて目の当たりにして、強い印象を受けました。 ダイナミックな変化や発展を遂げた都市は、横浜市も含めて、福祉の面や環境面での課題が出てくるのではないかと思います。横浜は、市民や企業の皆様が力を合わせて努力した結果、今では環境と経済成長を両立させた都市との評価もいただいています。 水ビジネスやIT・環境対策など、横浜の強みがあると考えていますので、ご協力できることがあれば、ご一緒に取り組んでいきたいと思います。さらには、上海市との間で人材交流も進めていきたいと考えています。
――横浜市を中国人観光客にアピールする際、どこをセールスポイントにしていこうと考えていますか?
横浜は海や空・緑といった自然が豊富で、東京よりもおだやかでゆったりとした時間が味わえます。日本文化が味わえる三渓園もあります。それでいて都会的な雰囲気があり、ショッピングやグルメ・ファッション・アミューズメントなど、皆さんが日本旅行で期待されるすべての要素を、あまり移動時間をかけずに味わえるコンパクトさがあります。 横浜を滞在拠点にすれば、温泉地の定番箱根や古都鎌倉、銀座や秋葉原へも簡単にアクセスできます。週末をエンジョイしていただく場所として横浜は最適でしょう。今年10月から羽田空港が国際化することに伴い、中国各地から横浜へのアクセスは格段によくなります。上海からわずか3時間で、皆さんはロマンチックな港街・横浜で、アーバンリゾート気分を満喫していただくことができます。
財産である「人」を大切にする
――羽田空港の国際ハブ化で、観光政策や国際コンベンション機能の強化をさらに行なうそうですが、特に世界のビジネスマンにとって横浜にはどのような魅力があると考えますか?
横浜は、羽田空港から電車でもバスでも約25分で、アクセスが非常に良く、アジアの主要都市と羽田空港が直行便で結ばれることは、横浜がアジアのハブ都市になる上で大きなインパクトを与えるものと考えています。例えば北京や上海などの中国の主要都市からは日帰り出張が可能で、横浜など首都圏にある日本企業との商談が簡単になります。 また、支店や駐在員事務所などを横浜に設置していただくことで、日本や欧米などのマーケットを視野に入れたグローバル拠点が誕生することになり、中国企業のビジネスチャンスが飛躍的に拡大します。 さらに世界のビジネスマン、特に欧米企業の方々が、先ずアジアで事業を展開しようとした場合、経済規模や法制整備の良さなど日本市場自体が持つ魅力に加え、アジア地域へのアクセスの良さが加わることで、横浜が欧米企業のアジアへのゲートウェーとして選ばれるチャンスも増してくるものと考えています。横浜は、アフターファイブも充実しています。今はワークライフバランスの時代ですから、ONとOFFの時の魅力が揃っている横浜は、ビジネスの拠点を置くのに最適なロケーションです。
――市長は経済界で数々の要職を歴任されていますが、会社の社長と市長の職の違いは何ですか?会社を経営するに当たって最も重視していることは何ですか?また、それは市政にどのように反映されていますか?
これまで色々なお仕事をしてきましたが、会社の社長と市長は、マネジメントという点ではとても似ています。市長は、横浜市を経済的に発展させなければならないし、毎日の市民の皆さんの生活を守らなければなりません。だから経営者としての資質を求められるとともに、医療や福祉、子育てといった市民に身近なことも日々こなしていかなければならないということで、市長は非常にやりがいのあるいい仕事だと思います。 私が最も重視してきたことは、何よりも「人」をいかに大切にするか、ということです。お客様はもちろん、従業員のことも大切に考えてきました。 仕事のスキルは、信頼しあう心をベースにした人間同士の土台がしっかりあって、その上に載るものです。土台づくりは一見遠回りのように思えますが、それによって人はモチベートされ、ビジネス上のスキルがぐっと高まり、それが会社の業績へとつながるのです。職場も会社もそういう生身の人間が集まってできています。企業再建や、厳しい中での組織の活性化にも取り組んできましたが、基本は、財産である「人」をいかに大切にするかです。 これは、行政にも通じることで、職員1人1人が現場目線を持って、市民の皆様の暮らしの充実に結びつけていく、そうした仕事の進め方ができる、人づくり・組織づくりに力を注いでいます。市役所の職員1人1人のモチベーションがあがることで、行政に対する市民の皆様の信頼も高まり、横浜市全体の活力にもつながるのです。
国際貿易港として未来を見据える
――現在、横浜市最大の課題は何ですか?それはどのように解決されるお考えですか?
少子高齢社会を迎え、子どもは横浜の未来を担う「宝」です。教育をはじめとして、安心して子どもを産み、育てられる環境づくりに力を入れています。 日本でも共働きの家庭が増加しましたが、両親が働いている間、子どもを預かる「保育所」に入るための競争が激しくなり、子育てに不安を感じる家庭が増えています。 このため「保育所」の整備を進めるだけでなく、横浜保育室・幼稚園・地域・企業と連携した取組を推進するなど、様々な主体が補い合って子育てを支援する施策を進めています。さらに、出産場所や万が一のときの受け入れ先など、産科・小児医療・救急医療体制の充実も進めています。また、学校、家庭、地域が連携して教育力を高め合う「きめ細かな教育」を推進しています。
――「国際コンテナ戦略港湾」の指定獲得に向け活動しているそうですが、韓国の釜山・シンガポール・中国の香港や上海など世界的なハブ港を目指す港は多くあります。横浜の強みは何ですか?
横浜港は、開港以来150年の歴史を持ち、我が国を代表する国際貿易港として発展してきました。しかしながら、国際拠点港湾を目指したアジア諸港との競争は厳しさを増しています。 このため、東京港・川崎港と連携して国際競争力強化に取り組んでおり、今回の「国際コンテナ戦略港湾」についても、京浜3港で応募しています。 この中で、釜山港などに対峙する国際拠点港湾、航路特性を活かした国際ハブポートの実現を目指し、三つのターゲットとして、 ①東日本のメインポート ②釜山港などに対峙する日本のハブポート ③東アジアの国際ハブポート を設定し取組みを進めていくこととしました。 具体的には、先進的なマイナス20メートルの大水深岸壁の整備や使用料の優遇措置など、ハード・ソフト両面に渡って施策を展開します。 横浜市では、横浜港のハブポート化を市の重点施策と位置づけており、一層の取組みを推進していきます。
林 文子 (はやし ふみこ)
1946年5月5日生 出身地 東京都
学歴
1965年東京都立青山高等学校 卒業
職歴
1965~1976年 東洋レーヨン株式会社(現東レ)、松下電器産業株式会社(現パナソニック) 等 勤務
1977年 ホンダオート横浜株式会社 入社後 ホンダクリオ神奈川北株式会社に転じる
1987年 BMW株式会社東京事業部(現BMW東京)入社
1993年 BMW東京株式会社 新宿支店長
1998年 同社 中央支店長
1999年 ファーレン東京株式会社(現フォルクスワーゲン東京)代表取締役社長
2003年 BMW東京株式会社 代表取締役社長
2005年 株式会社ダイエー 代表取締役会長 兼 CEO
2007年 同社 取締役副会長
2008年 5月 日産自動車株式会社 執行役員
2008年 6月 東京日産自動車販売株式会社 代表取締役社長
2009年 8月 横浜市長
インタビュアー:『月刊中国NEWS』 編集長 張一帆
『月刊中国NEWS』 10年08月号掲載
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